感染性心内膜炎の予防と治療に関するガイドライン(2008年改訂版)
Guidelines for the Prevention and Treatment of Infective Endocarditis(JCS 2008)
 
 
1 手術法
 感染性心内膜炎に対する手術には,組織破壊や感染巣の拡大の程度に応じてさまざまな手技が用いられる.感染が弁膜のみに限られる場合は,通常の弁置換術が行われる.特に僧帽弁の自己弁感染は僧帽弁置換術によって目的を達成できることが多い.感染病変が弁膜あるいは腱索の一部に限局する患者には,感染組織を切除ないし郭清して修復する僧帽弁形成術が奏功する.活動期感染性心内膜炎に対する僧帽弁形成術の試みは比較的新しいが,最近,手術死亡率,再発率,再手術発生率,遠隔死亡率,合併症発生率において弁形成術が弁置換術よりも優れていることが明らかになり,今や,弁形成術が標準的手術法になりつつある.しかしながら,本手技を術前に予測または予定して感染性心内膜炎の外科治療の適応を考慮することはいまだ普遍的ではない.他方,感染が弁輪周囲へ波及して膿瘍を形成したり,正常の解剖構成が破綻を来した重症例には,弁置換以外の弁輪周囲の再建手技が必要である.感染あるいは壊死組織の完全切除および郭清の後,一般的には直接縫合かパッチを用いて弁輪部分を再建した上で代用弁を移植する方法がとられる.この際,感染巣の徹底した郭清が最も重要である.機械弁と異種生体弁に手術予後の違いはなく,長期抗凝固療法の可否を考慮した通常の基準に従って選択する.しかし,弁輪への感染が波及しやすい大動脈弁位感染性心内膜炎では,これらの人工弁よりもホモグラフトの使用を推奨する報告が多くみられる.ホモグラフトは大動脈基部置換術として用いられることが多く,感染組織のより徹底した切除が可能となり,viable graftとしての感染抵抗性と相まって成績の向上が計れるものと思われる.ホモグラフトの入手が容易でないわが国においても,高度な感染病変を有する大動脈弁位感染性心内膜炎の患者には,できるだけホモグラフトによる基部置換術を行うべく努力すべきであろう.

Ⅴ 外科的治療 > 2 外科治療と術後管理 > 1 手術法

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