感染性心内膜炎の予防と治療に関するガイドライン(2008年改訂版)
Guidelines for the Prevention and Treatment of Infective Endocarditis(JCS 2008)
 
 
4 ハイリスク患者における感染性心内膜炎の教育と発熱時における対応の教育
 最近増加しつつある,health care-associateid infective endocarditisの予防においては,カテーテルを中心静脈に留置した患者は,感染性心内膜炎のハイリスク患者であるという認識を,循環器専門医のみならず,一般外科医,一般内科医も持ち合わせなくてはならない.

 歯科処置に対する過剰な注意が多い割には,感染性心内膜炎の知識や理解が普及していないことと,口腔内を清潔に保つことの重要性に対する看過も,わが国では関係していると思われる.そこで,本ガイドラインでは,単に抗菌薬による予防法を強調するのみでなく,口腔内清潔の重要性と患者自身の病気に対する知識を持つ重要性も強調した.

 また,感染性心内膜炎発症前に明らかな心疾患を有しない例も少なからずいることにも注意を払い,発熱が持続する患者が自ら感染性心内膜炎を疑って受診するような教育もなされるべきである.感染性心内膜炎の患者が最初に接する医療スタッフは,総合診療科医やプライマリケア医であるので,循環器内科医は感染性心内膜炎の知識の普及に努めなくてはならない.さらに,心内膜炎は適切な抗菌薬を予防投与しても発症することがあるということを,患者に認識させ,ハイリスク患者に歯科その他の外科処置を実施したのちに,発熱,夜間の悪寒,脱力感,倦怠感などが出現した場合には,感染性心内膜炎の可能性を自ら疑い,血液培養を含めた適切な対応を自ら求めることも重要である.基本的に感染性心内膜炎は稀であるが,身近で起こりうる病気であることを多くの医師,医療スタッフが認識することが,予防の基本になると思われる.

 診断の遅れのために不可逆的な合併症を起こしてしまう事例が多いという事実を勘案し,ハイリスク患者に持たせるガイドメモを提案した(表16).歯科治療をはじめ危険が高い手技を受ける時の注意,感染性心内膜炎を疑うべき症状とその対応について述べてある.これを患者が携行することにより,疾患の早期発見が得られると考えられる.
表16 ハイリスク患者のためのカード
あなたは,感染性心内膜炎(心臓の中の弁や,内膜に細菌な
どがつき,高熱や心不全,脳梗塞,脳出血などを起こす病気)
をおこしやすい心臓病があります.
そこで
1. 歯を抜いたり,歯槽膿漏の切開などをしたりする場合に
は適切な予防が必要となります.必ず,主治医の歯科医
にそのことを伝えて,適切な予防処置を受けてください.
2. 歯槽膿漏や,歯の根まで進んでしまった虫歯などを放置
しておくと感染性心内膜炎を引き起こしやすくなります.
定期的に歯科医を受診して口腔内を診察してもらいまし
ょう.
3. 口腔内を清潔に保つために,歯ブラシや歯ぐきのケアを
怠らないようにし,正しく歯科医の指導を受けてくださ
い.
4. 感染性心内膜炎を引き起こす可能性が示唆されている手
技や手術があります.手技や手術を受ける前に,実施医
に感染性心内膜炎になりやすいことを伝えてください.
5. 高熱が出た場合,その熱の原因が特定できない場合や,
すみやかに解熱しない場合には,安易に抗菌薬を内服し
てはいけません.その場合には,循環器科の主治医に相
談してください.

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