感染性心内膜炎の予防と治療に関するガイドライン(2008年改訂版)
Guidelines for the Prevention and Treatment of Infective Endocarditis(JCS 2008)
 
 
3 予防法
 表12 に記載された処置が行われる際の感染性心内膜炎の予防法として,周術期に抗菌薬を投与する方法がある.その予防法を実施するには,投与量,投与時期,投与方法について十分に考慮しなくてはならない.

 清潔な皮膚面において行われる手技に対しては,抗菌薬の予防投与は不要であるといわれている.しかし,その手技に要する時間が長ければ,感染の機会は増大するわけであり,患者の状態に応じて実施すべきか否かを検討すべきである.中心静脈カテーテルの挿入に際しても抗菌薬の投与は敗血症の予防にはならなかったという無作為盲検試験がある.ただし,帽子,マスク,ガウンをつけ,大きな覆布を用いて手技を行うことは重要である.
表12 抗菌薬の予防投与を必要とする手技
歯口科と心臓開心術以外の手技については,AHA ガイドライ
ンの2007年の改定で,感染性心内膜炎に対する予防的な抗菌
薬投与の推奨から除外された.しかし,感染性心内膜炎の予防
という意味でなく,抗菌薬の予防投与が実施されることはあり
うる.
ClassⅠ
感染性心内膜炎の予防として抗菌薬投与をしなくてはなら
ないもの
歯口科 出血を伴ったり,根尖を超えるような大きな侵
襲を伴う歯科手技(抜歯,歯周手術,スケーリ
ング,インプラントの植え込み,歯根管に対す
るピンなどの植え込みなど)
心臓手術 人工弁,人工物を植え込むような開心手術
耳鼻科  扁桃摘出術・アデノイド摘出術
ClassⅡb
感染性心内膜炎の予防のためではないが,手技に際して抗菌
薬投与をしてもよいと思われるもの
呼吸器 呼吸器粘膜を扱う手術(気管切開を含む)
気管支鏡検査(生検も含む)
消化管 食道静脈瘤に対する硬化療法
食道狭窄の拡張
胆道閉鎖時の逆行性内視鏡的胆管造影
大腸鏡や直腸鏡による生検
胆道手術
腸粘膜を扱う手術
泌尿器・前立腺の手術
生殖器 膀胱鏡検査
尿道拡張
経膣子宮摘出術
経膣分娩
帝王切開
感染していない組織における子宮内容除去
治療的流産
避妊手術
子宮内避妊器具の挿入または除去
その他 心臓カテーテル検査(PCIを含む)
ペースメーカ,除細動器の植え込み
外科的に洗浄した皮膚の切開あるいは生検
ClassⅢ
手技に際して抗菌薬投与をしなくてもよいもの
呼吸器 気管内挿管
鼓室穿孔時のチューブ挿入
消化管 経食道心エコー図
上部内視鏡検査(生検を含む)
泌尿器・生殖器 感染していない組織における尿道カテー
テル挿入
その他 中心静脈へのカテーテル挿入

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