感染性心内膜炎の予防と治療に関するガイドライン(2008年改訂版)
Guidelines for the Prevention and Treatment of Infective Endocarditis(JCS 2008)
 
 
6 中心静脈カテーテル挿入と留置
 現代のわが国の医療では経静脈栄養をはじめ,長期間留置するカテーテルが日常的になった.わが国のアンケート調査でも39例の経カテーテルによる感染性心内膜炎が報告されており,口腔内や咽頭部感染と口腔内の処置についで多い原因となっている.通常の中心静脈カテーテルを抜去したときのカテーテル培養では,18~ 40%に細菌が検出され,カテーテルに関係した血流感染症(血液培養陽性の他に感染源がない感染症)は1,000日間のカテーテル留置について約2~ 4%あるいは,約5%にみられるといわれている.血流感染症の頻度は,使用するカテーテルの内腔の数(シングルルーメンかトリプルルーメンか),カテーテル挿入部位に関連するとされている.複数の内腔を有するカテーテルの方が感染のリスクが高い.また内頸静脈の方が鎖骨下静脈よりも感染のリスクが高い.そのほかに,カテーテル留置日数,挿入する医師の技量,抗菌薬の使用の有無が因子として指摘されている.カテーテルに関連する菌血症の原因菌はコアグラーゼ陰性ブドウ球菌,カンジダ,腸球菌,黄色ブドウ球菌が主なものである.これらは感染性心内膜炎を来しうる重要な病原微生物である.

 鎖骨下静脈からのカテーテル挿入に伴う機械的合併症は内頸静脈からの挿入よりも多いという事実と,血流感染症は内頸静脈に多いという事実の両者を勘案し,カテーテル挿入部位を症例により選択すべきである.挿入は手術室で行う必要はないが,しっかりガウンを着て,大きな覆布をかけて,マスクをつけて行うべきである(maximal barrier precautionsと言われる).中心静脈あるいは肺動脈に留置したカテーテルをただ無条件に定期的に交換する必要はない.しかし,カテーテル留置患者では,挿入部位の感染,発熱などの全身感染症状に注意を払い,カテーテル抜去に躊躇せず,対応すべきである.中心静脈カテーテルの管理に関する院内マニュアルを各医療施設の院内感染症対策委員会は作成し,その遵守を励行しなくてはならない.対応を表13 にまとめた.
表13 中心静脈にカテーテルを挿入,留置するときの一般的注意
抗菌薬の予防投与 不要
カテーテルの挿入部位 内頸静脈は,鎖骨下静脈よりも血液
感染が多い
鎖骨下静脈は,内頸静脈より機械的
合併症が多い
皮下トンネルを作った方が感染が少
ない
着用するもの ガウン,マスク,帽子
皮膚の消毒 消毒には十分な時間をかけて行う
(少なくとも2 分以上)
留置後の管理 毎日,挿入部位の発赤,感染の有無
の観察
挿入部周囲が不潔にならないよう工

食事,排泄などの時に不潔になりや
すい
各施設の感染症予防委員会が独自に
設定したマニュアルの遵守

Ⅵ 予 防 > 2 どのような手技・処置が感染性心内膜炎のリスクとなるか > 6 中心静脈カテーテル挿入と留置

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