感染性心内膜炎の予防と治療に関するガイドライン(2008年改訂版)
Guidelines for the Prevention and Treatment of Infective Endocarditis(JCS 2008)
 
 
3 脳合併症の頻度,種類
 脳合併症の頻度としては,20~ 40%程度と言われている.初発症状が脳合併症である頻度も47%との報告がある.基礎に心疾患がある例で発熱を伴う脳神経系症状がみられる場合は,感染性心内膜炎を疑って検索する必要がある.

 脳合併症の種類としては,脳梗塞,一過性脳虚血性発作,脳出血,脳動脈瘤,髄膜炎,脳膿瘍,癲癇発作などが上げられる.Duke大学における多数例の検討では,脳合併症の発生頻度は僧帽弁位の方が大動脈弁位に比し約2 倍高いが,脳合併症のタイプや罹患脳動脈領域では差はなかったと報告されている.わが国における多施設共同後ろ向き研究では,手術を施行した感染性心内膜炎患者すべてのうち9.7%が脳合併症を起こしており,内訳は脳梗塞;64.6%,脳出血;31.5%,脳膿瘍;2.8%,髄膜炎;1.1%となっている.脳梗塞を合併した症例では死亡率は高く,特に人工弁性感染性心内膜炎で高い死亡率であった.神経学的合併症を起こした群と起こさなかった群の比較では,神経系の合併症の原因菌としてはStaphylococcus aureusが多くまた急性期の死亡率も,合併症のない群10%に比し,ある群では24%~ 34%と神経系合併症を有する例ではより予後が不良であった.

 脳梗塞ではその範囲によりさまざまな臨床症状が発現する.発熱と神経学的症状により,髄膜炎と診断されていることもある.脳出血は出血性脳梗塞と,感染性動脈瘤の破裂によって起こるクモ膜下出血に分けられるが,後者の症状はより劇的である.感染性動脈瘤の破裂は感染性心内膜炎が治癒してから数ヶ月から数年経てから発症することもある.

Ⅳ 合併症の評価と管理 > 2 心臓外の合併症 > 3 脳合併症の頻度,種類

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