感染性心内膜炎の予防と治療に関するガイドライン(2008年改訂版)
Guidelines for the Prevention and Treatment of Infective Endocarditis(JCS 2008)
 
 
2 弁周囲感染
①病態

 感染が弁輪部を超えて周辺組織に広がると,膿瘍が形成される(弁周囲膿瘍,心筋内膿瘍).膿瘍が心筋組織に浸潤し心腔内に穿破すると瘻孔となり,心腔間に
瘻管が形成されると心内シャントが生じる.また弁周囲感染巣が弁輪の広範囲に及ぶと,大動脈と僧帽弁の結合性や心室と大動脈の結合性が破綻し,血行動態が突然に悪化する.

 弁周囲感染は,自己弁の感染性心内膜炎の10~ 14%,人工弁の感染性心内膜炎の45~ 60%に合併する.自己弁の弁周囲感染は,大動脈弁の感染性心内膜炎に特に高頻度に認められる.この場合大動脈弁輪の脆弱部である膜性中隔と房室結節に近い部分に生じやすく,心ブロック(完全房室ブロックや左脚ブロック)が
続発することがある.人工弁の弁周囲感染は,僧帽弁の感染性心内膜炎にも高率に生じる.自己弁または生体弁の感染性心内膜炎の場合には,初期感染巣は弁
尖部のことが多いのに対して,機械弁の感染の場合には初期感染巣が弁輪部であるため,弁周囲感染はさらに高率(56~ 100%)に発症する.

②診断

 十分な抗菌薬治療を受けているにもかかわらず,持続性の菌血症または発熱,再発性塞栓,完全房室ブロックや左脚ブロック,新たな病的雑音の出現,心膜炎所見が出現した場合には弁周囲感染を疑うべきである.

 弁周囲感染の診断において,心エコー図は重要である.心エコー図では,膿瘍はエコーフリースペースとして描出され,心内シャントを形成した場合はドプラ法でシャント血流が描出される.経胸壁心エコー図による弁周囲感染診断は,感度28%,特異度88%である.これに対し,経食道心エコー図では,感度87%,特異度95%で弁周囲感染を診断できる.よって弁周囲感染が疑われた場合には,経食道心エコー図が必須である.

③治療法の決定

 弁周囲に感染が進展したことが判明した場合は,うっ血性心不全合併の有無にかかわらず,基本的に外科手術の適応である.心内シャントの形成,大動脈と僧帽弁の結合性・心室と大動脈の結合性の破壊が疑われる場合(弁輪部の広範にわたる膿瘍の形成や僧帽弁大動脈弁三角部の膿瘍形成),人工弁周囲の感染で弁座に可動性が認められる場合は特に緊急性が高い.

Ⅳ 合併症の評価と管理 > 1 心臓内の合併症 > 2 弁周囲感染

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