感染性心内膜炎の予防と治療に関するガイドライン(2008年改訂版)
Guidelines for the Prevention and Treatment of Infective Endocarditis(JCS 2008)
 
 
1 うっ血性心不全
①原因と病態

 うっ血性心不全の合併は感染性心内膜炎の最大の予後規定因子である.感染性心内膜炎に伴ううっ血性心不全は,炎症による弁破壊が進行し,弁閉鎖不全が増悪して出現することが大部分である.自己弁や生体弁への感染による弁尖の穿孔,僧帽弁の腱索への感染によって生じる腱索の断裂,人工弁の弁周囲感染によって引き起こされる裂開,弁周囲感染から心腔間に瘻管が形成された際の突発的な心内シャント,大きい疣腫による弁閉塞等が生じた場合には,うっ血性心不全はより急性に発症する.感染性心内膜炎に伴う弁破壊は適切な抗菌薬が投与されていても進行する場合がある.

 自己弁感染性心内膜炎の場合は,大動脈弁への感染の場合にうっ血性心不全の合併率が最も高く(29%),僧帽弁への感染の場合(20%),三尖弁への感染の場合(8%)と続く.菌の種類によってもうっ血性心不全の合併率は異なる.Enterococci(腸球菌),S. pneumoniae(肺炎球菌),グラム陰性菌を原因菌とする場合や無菌性の場合にうっ血性心不全の合併率が高い.新たに発症するうっ血性心不全の原因としてはStaphylococcus aureus(黄色ブドウ球菌)によるものが最多である.

②診断

 うっ血性心不全の診断は,自覚症状,臨床所見を中心に,胸部レントゲン写真や動脈血ガス分析等の検査所見を併用して行う.ニューヨーク心臓学会機能分類(New York Heart Association,NYHA 分類)による自覚症状の評価は感染性心内膜炎の予後との関連が報告されており,特に重要である.うっ血性心不全を合併した場合には,心エコー図によって,原因と重症度を評価(弁尖の穿孔・腱索の断裂・人工弁の裂開・心内シャント・疣腫による弁閉塞等の有無の確認,閉鎖不全の重症度評価,心機能評価)することが必要である.

 心エコー図は,弁破壊の進行が停止するまでの間は週に2 回程度,原因菌がStaphylococcus aureus(黄色ブドウ球菌)である場合には,それ以上の頻度で行うのが望ましい.新たな自覚症状の出現,逆流の増大,心腔の進行性拡大,肺動脈圧の上昇等はうっ血性心不全が顕性化する前兆ととらえるべきである.感染性心内膜炎診断時の弁逆流が軽度であっても,弁破壊の進行が早く,急激に閉鎖不全が増悪する場合には容易にうっ血性心不全を来す.感染性心内膜炎に伴う弁逆流は急性の弁逆流であるため,慢性の弁逆流の場合と異なり,心腔の拡大は通常軽度である.従って,わずかな進行性拡大でもその意義は大きい.また,弁逆流による容量負荷によって,左室の壁運動は亢進するため,左室壁運動が良好であることは心機能が良好であることを必ずしも意味しない.むしろ,壁運動亢進の経時的進行は,弁逆流の進行による容量負荷のあらわれととらえるべきである.

③治療法の決定

 うっ血性心不全を合併した場合は基本的に外科手術が必要となる.たとえ感染の活動性が高い状態であっても,それを理由に手術を遅らせるべきではない. 特にNYHA 分類のⅢ-Ⅳ度のうっ血性心不全を合併した場合には,外科手術が遅れると予後は極めて不良となる.活動性感染性心内膜炎患者に弁置換術を施行した場合に,置換弁に感染が再発する率は2 ~ 3%と推定されており,うっ血性心不全を合併した感染性心内膜炎を内科的に治療した場合の死亡率のほうがはるかに高い.

Ⅳ 合併症の評価と管理 > 1 心臓内の合併症 > 1 うっ血性心不全

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