感染性心内膜炎の予防と治療に関するガイドライン(2008年改訂版)
Guidelines for the Prevention and Treatment of Infective Endocarditis(JCS 2008)
 
 
2 発熱
 最も頻度の高い症状(80~ 85%)である.Duke診断基準(表1)では38度以上の発熱とされているが,亜急性では微熱が長期にわたる場合があり,高齢者ではみられないこともある.また経口抗菌薬が投与されている場合には,臨床症状が修飾されうる.感染性心内膜炎のリスクとなる弁膜症をもつ場合や,人工弁置換術後例,先天性心疾患例で,他に説明のつかない発熱が続く場合には本症の可能性を考える.また,静注薬物常用者に発熱が続く場合も本症を疑う.
表1 感染性心内膜炎(IE)のDuke臨床的診断基準
注1) 本ガイドラインでは菌種の名称についてはすべて英語表記とし通例に従って Streptococcus viridans 以外はイタリック体で表
        示した.
注2) Staphylococcus aureus は,改訂版では,i)に含まれるようになった.
注3) 本項は改訂版で追加された.
注4) 改訂版では,人工弁置換例,臨床的基準でIE可能性となる場合,弁輪部膿瘍などの合併症を伴うIE,については,経食道心
        エコー図の施行が推奨されている.
注5) 改訂版では,“心エコー図所見:IEに一致するが,上記の大基準を満たさない場合”,は小基準から削除されている
注6) 改訂版では,“IE可能性”は,このように変更されている
【IE 確診例】
 Ⅰ.臨床的基準
   大基準2 つ,または大基準1 つと小基準3 つ,または小基準5 つ
 (大基準)
   1.IE に対する血液培養陽性
     A.2回の血液培養で以下のいずれかが認められた場合
      (ⅰ)Streptococcus viridans(注1),Streptococcus bovis,HACEK グループ,Staphylococcus aureus
      (ⅱ)Enterococcus が検出され(市中感染),他に感染巣がない場合(注2)
     B.つぎのように定義される持続性のIE に合致する血液培養陽性
      (ⅰ)12 時間以上間隔をあけて採取した血液検体の培養が2 回以上陽性
      (ⅱ)3 回の血液培養すべてあるいは4 回以上の血液培養の大半が陽性(最初と最後の採血間隔が1 時間以上)
     C.1 回の血液培養でもCoxiella burnetti が検出された場合,あるいは抗phase1 IgG 抗体価800 倍以上(注3)
   2.心内膜が侵されている所見でAまたはB の場合(注4)
     A.IEの心エコー図所見で以下のいずれかの場合
      (ⅰ) 弁あるいはその支持組織の上,または逆流ジェット通路,または人工物の上にみられる解剖学的に説明のでき
ない振動性の心臓内腫瘤
      (ⅱ)膿瘍
      (ⅲ)人工弁の新たな部分的裂開
     B.新規の弁閉鎖不全(既存の雑音の悪化または変化のみでは十分でない)
 (小基準)(注5)
   1.素因:素因となる心疾患または静注薬物常用
   2.発熱:38.0℃以上
   3.血管現象:主要血管塞栓,敗血症性梗塞,感染性動脈瘤,頭蓋内出血,眼球結膜出血,Janeway 発疹
   4.免疫学的現象:糸球体腎炎,Osler結節,Roth斑,リウマチ因子
   5.微生物学的所見: 血液培養陽性であるが上記の大基準を満たさない場合,またはIE として矛盾のない活動性炎症の血清
学的証拠
  
 Ⅱ.病理学的基準
    菌: 培養または組織検査により疣腫,塞栓化した疣腫,心内膿瘍において証明,あるいは病変部位における検索:組織
学的に活動性を呈する疣贅や心筋膿瘍を認める
【IE 可能性】
  大基準1 つと小基準1 つ,または小基準3 つ(注6)
【否定的】
  心内膜炎症状に対する別の確実な診断,または
  心内膜炎症状が4 日以内の抗菌薬により消退,または
  4 日以内の抗菌薬投与後の手術時または剖検時にIE の病理学所見なし

Ⅱ 診断 > 1 症状・身体所見 > 2 発熱

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